日々邂逅09
ー下川裕治さんとラカイン族の人々 前編ー
下川裕治さん、という旅行作家をご存じの方は海外であれば尚更多いかもしれません。
ご自身の著書(『アジアの~』『週末~』『好きになっちゃった~』などが下川さんの本)を通してバックパッカーという言葉を身近にさせ、同時にバブル期のような華やかな旅行のみが海外旅行ではない、と私たちの視点をぐわっと広げさせた功績は計り知れないと私は思っています。
実際に私が大学2年生のとき。
「何とかして安く海外へ行けないものか」と考え、旅行好きの先輩に教えていただいたのが『格安旅行券ガイド』という雑誌。
下川さんが編集長を務めていた雑誌でした。
その下川さんとまさか一緒にバングラデシュに滞在することになるとは・・・それは私が25歳の時でした。
きっかけは偶然掲載されていた記事でした。
高校時代の友人と台湾旅行へ行こう、ということになり、旅行と言えば『格安旅行券ガイド』とばかりに購入した号の最終ページ。
そこにバングラデシュの南、コックスバザールという町のことが掲載されていました。
土埃の煙たさや、水揚げされたばかりの魚介の匂いがぷんと漂ってきそうな、そんな生活感あふれる写真と共に紹介されていたのは、そこで暮らす仏教徒の少数民族ラカイン族の人々のこと。
そしてそのラカイン族の人々の協力を得て、当時内戦中だったビルマ(ラカイン族の村はビルマの国境に面している)への取材中に命を落とした日本人ジャーナリストのことでした。
朴訥とした口調で綴られた文体はかえって真実味を深め、私は何度もその記事を読みかえました。
そしてその記事の最後の欄外にはこのように書かれていました。
「ラカイン族の学校や文化がイスラム社会から圧力を受け、維持が困難になってきています。支援に興味のある方は編集部までご連絡ください」
で、電話しました。「興味あります」と。
翌週、編集部のあった秋葉原駅前で待ち合わせ場所に現れた人・・・その方が下川裕治さんでした。
興味があるだけのどこの馬の骨とも分からない若僧の私に、初めてお会いした下川さんは丁寧にバングラデシュのこと、ラカイン族のことを話してくださいました。
そして「学校運営の支援をちゃんとやっていこうと思っているんだけど、一緒にやらない?」と言ってくださったのです。
エネルギーだけは有り余っていた、半端な社会人かつバンドマンかつ漫画喫茶店長だった私は二つ返事で「はい!手伝わせてください!」と即答しました。
《続く》