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連載「日々邂逅11」—下川裕治さんとラカイン族の人々 後編—

日々邂逅11
下川裕治さんとラカイン族の人々 後編

初めて降り立った夜中のシャージャラル国際空港(ダッカ)は衝撃的でした。

薄暗い通路は蚊が充満しており、一歩外に出るとあっという間に物乞いの子供たちに囲まれる。

突然目の前に広がった世界最貧国の「日常」風景。

これまで頭の中だけで知った気になっていた開発途上国のイメージはあっという間に霧散しました。

合流した下川さんと同行する関係者の方数名と共にバスに揺られて15時間。

いつ事故を起こしても不思議のないバスの窓越しに広がる開発途上国の人たちの暮らしや荒廃した土地。

ラカイン族の人たちの暮らすコックスバザールに着いた頃には、それを形容する言葉が頭のどこを探しても見つかりませんでした。

 

そこからおよそ1週間滞在したコックスバザールでの経験。

壊されたり、落書きをされたりしているイスラムの町に取り残された仏塔。

ミャンマーとの国境に広がっていた数えきれない難民、キャンプ、その悲惨な生活。

仏教徒であるラカインの女性がイスラムの町を歩くだけで飛んでくる悲しい言葉。

老朽が進み、二階の床は穴が開いている危険なラカインの子供たちの小学校・・・

 

「石川さんは、僕たちのために何をしてくれますか?」

東京でエサさんに言われたその意味を痛感していました。

 

打ちひしがれる私に下川さんが声をかけてくれました。

「バングラデシュには海外からの支援で出来た建造物がたくさんある。

コックスバザールにも日本のODAで作った学校がある。

でも作った後、誰にも使われていない。

そこを運営したり活用する資金や力がないんだ。

支援した側は建物が出来て満足しているだろうけどね。」

そしてこう続けました。

「一回だけの支援は簡単。だけど継続的な支援は本当に難しいんだ。

それどころか中途半端な支援はかえってこの国の人たちの自立を妨げることになる。」

今の自分に出来ることは、本当にあるのだろうか……

 

水と食べ物にやられてトイレが親友となったまま帰国した半年後、私は青年海外協力隊の小学校教諭隊員としてアフリカのジンバブエに来ていました。

知識がない、技術がない、財力もない。

そんな私がその時できる唯一のことは「経験」を積むこと。

経験を積んで、もっと世界を知ろう。

時間をかけていろんな世界を知って、私がジジイになる頃、世界のどこか小さな場所で困っている人たちの生活に寄与できるような、そんな力を身につけよう。

わずか一週間ほどのコックスバザールの滞在は、現実を知り、自分を見つめなおすための大きな大きなきっかけを与えてくれました。

 

中途半端な社会人として東京に埋没していた当時の私。

あの時、たまたま下川さんの記事を読んでいなかったら、

それを通してラカイン族の人たちと出会っていなかったら、

間違いなくその後の人生はまるで違うものになっていただろうし、

巡り巡って今こうして海外で塾をやるなんてことにもならなかったと思います。

 

 

石川

 

【追記】

下川さんはその後もずっとラカインの人たちの支援を続けています。

https://diamond.jp/articles/-/204640

https://diamond.jp/articles/-/205032

また、この時のコックスバザール滞在中に1番仲良しになったトエエモンというラカイン人の友人は、2003年に留学生として来日し、日本で学び、働き、現在は起業し浅草で寿司屋を経営しています。

https://bunshun.jp/articles/-/12916

(私は日本出張の度に行っていますが、お寿司が本当に美味しくてしかも安い!ハイボールはなんと190円!※2019年10月当時)