日々邂逅16
ー 日本代表、W杯出場決定!!・・・か!? ー
2013年6月4日、その事件は起きました。
私はサッカー好きで、特に日本代表の試合を楽しみに生きていると言っても過言ではありません。
KOMABAでたいへんお世話になっている「ちょんまげ隊ツンさん」には遠く足元にも及びませんが、0泊3日でオーストラリアまで日本代表を応援に行ったこともあります。
特に熱く燃え上がるのはW杯最終予選、ましてその結果次第でW杯出場が決まるかどうかの試合は、ドーハに始まりジョホールバルを経由して以来、私の人生の一大イベントとして輝き続けています。
本日2022年3月24日。
我らが日本代表がオーストラリア代表に勝てばW杯出場が決まります。
頑張れニッポン!!!
さて、このタイミングが来ると私は思い出さずにはいられない「事件」があります。
2013年、日本代表はブラジルW杯を目指してオーストラリアとの大一番を控えていました。
当然私もそわそわ。観たい。でも中学3年生の授業がある。仕方ない、結果を見ないようにして録画だな・・・
そんなことを考えていた試合数日前のこと。
私は当時のほぼ女子で構成されていた中学3年生たちに呼び出されました。
「石川先生、私たちは海外に住んでいますが日本人です」
「は…はい」
「日本を愛しています」
「お…おぅ」
「私たちは確かに受験生です」
「そ…そうね」
「しかし日本のために、選手たちがオーストラリアと戦おうとしています」
「う…うん…」
「授業をやったとしても、私たちは石川先生の授業に集中できません。先生はそれでいいんですか!?」
「や…それは…」
「だから試合当日は教室でみんなで日本対オーストラリアを観ましょう!そして日本代表がW杯出場を決めれば、私たちはもっとやる気が出て受験勉強を頑張ると思うんです。いえ、頑張ります!だからみんなで観て応援しましょう!!!!」
もちろん、私もそうしたい。
しかも愛すべきこの生徒たちと一緒に試合を観れたなら、決して忘れられない最高の思い出になるだろう。
しかし、当時のKOMABAは開校2年目、出来て間もないまだまだ不安定な学習塾。
「うふふ、KOMABAでは受験生が勉強しないで、塾でサッカー観てるらいしいよ、うふふ、だめねぇ」
なんて噂がたったら…
考えに考えた末「よし、みんなで観よう!ただし授業後に録画でだ。だからいつもより授業を早く始めよう。授業終了時刻がちょうど試合終了時刻と重なるが、結果を見ないようにして前半0分からみんなで応援しよう!!」となったのでした。
生徒たちは大喜び。
そして当日。
大量のお菓子とジュースを買い込み、日本代表のユニフォームを着て、臨戦態勢は整った。
私の授業(=消化試合)を終え、生徒たちのテンションはMAXに!
さあ、観るぞ!
楽しみだね!
日本、W杯行けるかな!?
どうしよう、緊張してきた!
がんばれニッポン!!
きゃっきゃきゃっきゃとスクリーン前に集まったその時でした。
「・・・ちょっとみんな!私のスマホに速報来てる!『日本代表、W杯出場決定』だって!!!」
人が生きていくうえで「言ってはいけないひと言」があるのだとしたら、
私の人生で「間違って知っても決して口にしてはいけないひと言 ランキング1位」を選ぶのだとしたら、
うっかりキャラKちゃんのこのひと言を選びます。
一瞬前までの喧噪が嘘のように、静まりかえる教室。
こおりつく空気。
突き刺すような冷たい視線が一斉に注がれる中、それに気づかずスマホを見ながらKちゃんは「みんなより先に知っちゃった!」とウキウキ顔です。
はっ
ようやく気づいたKちゃん。
ワナワナと震えながら頭の中が「どうしようどうしよう」でいっぱいになっているKちゃん。
「なんとかしなきゃなんとかしなきゃ」と口から絞り出した言葉が…
「『日本代表、W杯出場決定!・・・か!?』だって!! みんな!『か!?』だよ!!まだ分からないよっ!!!!」
「んなわけねーだろっ!!」
「そんな速報あるか!!」
「ぶちこわしやがったな!!」
あんなにみんなで楽しみにしていた試合が、突如として私の授業以上の消化試合に。
硬直状態が続く緊迫した前半も、
後半36分、オーストラリアが先制し日本絶体絶命の展開にも、
後半43分、解説の松木安太郎さんの「ぴぃけぇぇぇぇぇ!!」という絶叫にも、
後半45分、本田が人生の何たるかを悟った目線でペナルティースポットに向かう瞬間も、
・・・どう盛り上がったらよいのか戸惑いの空気が完全支配。
誰かがつぶやく「本田、PK決めるかなぁ」も、むなしさを助長するだけ。
かくしてKちゃんの速報通りW杯出場を決めた日本代表。
この先W杯最終予選でオーストラリア戦を観るとき、W杯出場決定がかかる試合を観るとき、必ずやKちゃんとこの子たちのことを思い出すのだろうなぁ・・・2013年6月4日、そう私は確信したのでした。
10年経って今日、改めて当時を邂逅しながら私はニッコニコしながらキーボードを叩いています。
ある意味で決して忘れることができない試合にしてくれたあの子たち。
当時を懐かしく思い、そして今、それぞれの場所でそれぞれの羽を広げているのだろうなぁと想像するとたまらなく嬉しくなります。
今日の試合もみんなはどんな思いで観るんでしょうね。
あ、Kちゃん、石川は今日も授業のため録画で観戦ですので、決して「速報」を伝えないでくださいね!
いつまでの色褪せないステキな思い出を与えてくれた愛すべきあの子たちに感謝!
石川
↓実際の当日の写真