自律と自立を育むシンガポールの学習塾
学習塾KOMABAシンガポール
+65 6736 0727
平日 13:00-22:30 土 9:30-19:00 日休

本当にあった怖い話「真夜中の骨とう屋怪綺談」

これからお話するのは、私(石川)が体験した本当の話です。

 

タングリンショッピングセンターはオーチャード界隈では古い建物です。

かつてはオーチャード駅近くという好立地からお土産屋さんが立ち並び、有名レストランも昼夜問わず賑わっていたそうです。

しかし相次ぐ新しいショッピングモールの建設ラッシュという時代の波に取り残され、皮肉なことに建物そのももの運命と同じく「骨とう屋」だけが数多く取り残され、日々細々と営業しています。

 

骨とう屋。

KOMABAのある3階だけでも10件以上あるのですが・・・私は骨とう品が売れているところを、いやそれどころか客が入っている現場を一度も目撃したことがありません。

お店の中にいるのは、年老いた店主だけなのです。

唯一の例外が店の隣の、やはり年老いた店主。

お茶をしにきているのです。

それくらい・・・ひと気がない骨とう屋ばかりなのです。

 

取り扱っている物もまたすごい。

いろいろなポーズの仏様。

その隣に大小のガネーシャ(ヒンズー教の神様)。

奥の棚の上には十字架とイエス様。

 

ご利益が相当量薄まっているに違いありません。

 

他には陶器のお皿や壺、掛け軸、人形、年代物のカメラやパイプ・・・

欲しいなぁ、と思わないのです。

掘り出し物を探してみようかなぁ、という気持ちにならないのです。

 

でも・・・決してつぶれないのです。

あんなに繁盛していた3つ隣の食堂が今月、わずか1年でつぶれてしまったのに。

骨とう屋は今日もまだつぶれていません。

 

骨とう屋は夕方になると閉まります。

日によっては昼過ぎに閉まるのです。

いえ、朝から閉まっている日もたくさんあるのです。

 

そんな骨とう屋は夜になるとますます沈黙を深めます。

いったいそこに何年間鎮座しているのだろうという神々や、かつての人たちに使われし物たちは、明日の日の光を待ちわびながら長い夜を過ごします。

 

6月20日。

夜遅くのことでした。

その日は熱帯のシンガポールにしては珍しく、夜になってからのシトシト雨が降っていました。

 

授業を終え、補習も終えた子どもたちが一人、また一人と帰っていきました。

私はいつもの席にようやく座り、決して尽きることのないメールの返信を、眠い目をこすりながらカタカタと打ち込んでいました。

ふと尿意をもよおした私は、教室を出て一人でトイレに向かいました。

 

非常灯以外全て消えた薄暗い廊下。

ひたひたと歩いていた、その時でした。

 

どこからともなく、

 

・・・うぅぅぅぅ・・・・・・うぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ・・・

 

低いような高いような「う」が、どこからともなく脳に直接聞こえてきたのです。

 

薄気味悪い真夜中のタングリンショッピングセンターなど、ほぼ毎日のこと。慣れっこです。

恐怖など感じたことはありません。

なのに、これは・・・

 

思わずたじろいだ私は、じっと耳をすましました。

 

・・・うぅぅぅぅぅぅ・・・・・・

 

今度ははっきりと耳に響いてきました。

 

前後を見渡しました。

誰もいません。

 

私の背筋は凍り付き、そしてこの時はじめて恐怖を感じました。

 

外では絶え間なくシトシトと雨が降っています。

早く教室に戻ろう。

そしてパソコンを閉じて家に帰ろう。

 

でも、一度耳が覚えてしまった「うぅぅ」は脳裏張り付き、どうしてもその声を追ってしまうのです。

 

うぅぅぅぅぅぅ・・・

 

聞こえたり聞こえなくなったり。

少し声が大きくなったり押し殺すように静かになったり。

 

逃げ出したい恐怖。

反面、無意識下に潜在する恐怖への憧憬。

 

なぜか私はこの時、後者が勝ってしまったのです。

 

忍び足で音をたどると、どうやら教室から数件隣の骨とう屋から聞こえてくることが分かりました。

当然、店内の明かりは消えています。

誰もいるはずがないのです。

なのに、うめき声は明らかにその骨とう屋から聞こえるのです!

 

おそるおそる覗き込んだ・・・その瞬間でした!!!!

漆黒の店の奥から、白いぼおっとしたかたまりが覗き込んだ私の足元へと突っ込んできたのです!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

・・・!!!!

ルンバです。

2002年に初登場して以来、日本のいや世界の主婦や独身男性をにっこりさせてきたルンバが、深夜の骨とう屋で「うぅぅぅぅぅぅ」と蠢(うごめ)いていたのです。

 

なぜこんな時間に1人で働く、ルンバ。

何時から働いていたんだ、ルンバ。

あぁ、タイマーで動き始めたのか、ルンバ。

でも今日も客は来なかったはずだぞ、ルンバ。

そもそもおまえの主(あるじ)を最近見ていないぞ、ルンバ。

 

(ガラス越しに私にすり寄ってきたルンバ。心なしか泣いているように見える)

 

 

私は輪廻転生をどこかで信じています。

同じく信じている私の妻は、シンガポールでマナーの悪い人を見かけると「来世は灰皿になってしまえ・・・」とつぶやくのがクセです。

 

私は今、はっきりと思うのです。

神様、私はこれから(できるだけ)清く生きていきます。

だから来世ではどうか、タングリンショッピングセンターの骨とう屋のルンバだけは勘弁してください。

あぁ、神様、本当に・・・

ん、そーいや俺、カミサマ持ってねーや。

どこかで買わなくちゃ・・・。

 

《完》